第二十四回 2021年3月23日 続 「福島の話をしよう」 続「福島の話をしよう」 東日本大震災での原発事故の被ばくで住民のがんが増えることはありえない

日本一安全な「福島産」食材に対する残念な風評被害

東京電力福島第一原発事故以降、全村避難が行われた福島県飯舘村で、定期的に支援に携わってきました。

一般住民の被ばく量は非常に少なく、とりわけ内部被ばくは驚くほど低く抑えられています。原発事故とは無関係の天然の放射性物質による内部被ばくは年間1ミリシーベルト程度ありますが、事故による追加の内部被ばくは、ほぼゼロと言えるのです。

食品の放射能に関しては、きちんと検査が行われている福島産が日本で一番、「確実に安全」とすら言えます。

しかし、首都圏の消費者には福島の食材を購入しないという人も少なくなく、大変残念な状況が続いています。海外での風評被害も相変わらずで、中国、韓国、台湾などでは、禁輸措置などが続いています。

CTによる被ばく量以下

外部被ばくの方は、内部被ばくと違ってゼロとは言えませんが、飯舘村の工場に村外から通勤する会社員の被ばく量を私たちの研究グループが測定したところ、最大で年間3ミリシーベルト以内にとどまっていました。

「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」は3月9日、事故による放射線被ばく量や健康への影響に関する最新の報告書を公表しました。それによると、避難者の事故から1年間の外部被ばく量の平均値は、最大5.5ミリシーベルトでした。CTスキャンによる被ばく量が7ミリシーベルト程度ですから、問題になるレベルではありません。

広島、長崎の被ばく者を対象とした綿密な調査でも、100ミリシーベルト以下ではがんが増えるというデータはありません。これは、100ミリシーベルトが野菜不足や受動喫煙の発がんリスクに相当するほど低い影響しか与えない一方、喫煙や大量飲酒は2000ミリシーベルトもの全身被ばくに相当するため、100ミリシーベルト以下の被ばく量では、他の要因のなかに埋没して検出できなくなるからです。

「直線しきい値なしモデル」とは

放射線被ばくの人体への影響は、他の要因と比較して、わずかなものと言えるのですが、被ばく量は数値化が容易であり、悪名高いこともあり、誤解されやすい存在なのです。

しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)は安全に配慮して、わずかな被ばくでも、線量に比例して発がんが増えるという「直線しきい値なしモデル」を提唱しています。

このモデルは、100ミリシーベルト以上の科学的データのある部分と100ミリシーベルト以下の「安全哲学」に属する部分を合体させたものです。「100ミリシーベルトでがん死亡が0.5%増えるから、10ミリシーベルトではがん死亡が0.05%増える。1億人が10ミリシーベルト被ばくしたら、がん死亡が5万人増える」といった計算に使うことはできないことに、留意する必要があります。

避難による生活習慣の悪化がもたらす健康被害

直線しきい値なしモデルは、ゼロ被ばく以外、発がんリスクは増えることを意味しますが、このモデルを提唱するICRPでさえ、その報告書のなかで、「10ミリシーベルト以下では、大きな被ばく集団でさえ、がん罹患(りかん)率の増加は見られない」と述べています。避難民の被ばく量は最大でも10ミリシーベルトになることはありませんから、今回の事故でがんが増えることはありえないと言えます。

10年におよぶ避難によって「震災関連死」と認定された人が、福島県で2320人を超えました。地震や津波による直接的な死亡を上回っています。また、死亡には至らなくとも、避難民の生活習慣は悪化の一途をたどり、糖尿病、うつ病などが有意に増えています。

飯舘村の村民約1000人を対象とした健康調査でも、糖尿病、高血圧、肝機能障害、脂質代謝異常が、震災後に明らかに増えています。

糖尿病患者では、がん罹患リスクが20%(肝臓がんや膵臓(すいぞう)がんでは2倍)も高くなることが分かっていますから、「がんを避けるための避難が、結果的にがんを増やす」という最悪の結末になると危惧されます。今後5〜10年後に、福島でがんが増える可能性が大ですが、それは被ばくによってではなく、過剰な避難によって起こると言えます。