2020年4月14日 若い人に多い「家族性のがん」 乳房、前立腺…欧米では発症前の切除も

がんにまつわる誤解はたくさんあります。「遺伝病」というイメージもその一つです。「がん家系だから心配」などと言う人もいますが、がんの原因のうち遺伝が占める割合は5%程度にすぎません。

アンジェリーナ・ジョリーさんの予防的切除

現在、日本人男性の3人に2人、女性でも2人に1人が、生涯に何らかのがんに 罹患りかん します。「うちは父も母もがんになった」などというと、「がん家系」という印象を与えますが、両親ともがんになる格率は2/3×1/2=1/3ですから、決して珍しくはないわけです。

がんは遺伝子が傷ついてできる病気ですが、基本的には、遺伝する病気ではないのです。ただし、わずかに遺伝性のがんも存在し、「家族性腫瘍」と呼ばれます。

2013年5月、ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(当時37歳)が、家族性腫瘍の予防のために左右の乳腺組織を切除したと発表しました。彼女は実際に乳がんを発症したわけではありません。BRCA1と呼ばれる「がん抑制遺伝子」に生まれつき異常があることが分かったため、健康な乳腺組織を予防的にかき出してシリコンに置き換えたのです。

さらに、乳腺切除から2年後の15年3月には、卵巣と卵管の予防的な切除を公表しました。

彼女のようにBRCA1に変異がある場合、発がんリスクは非常に高くなり、特に乳がんと卵巣がんの発生確率は、それぞれ約65%、40%に上ります。このため、予防的な乳腺、卵巣の摘出を決めたわけです。

BRCA1の異常は、血液検査で簡単に分かります。すべての遺伝子は父母から一つずつ受け取りますが、彼女の場合、母親からのBRCA1に異常があったと考えられます。異常なBRCA1遺伝子を持った卵子と正常な精子が合体した受精卵から、彼女のすべての細胞は作られましたから、血液の細胞を採るだけでBRCA1の異常が分かるのです。

若年性前立腺がん、男性乳がんのリスクも

BRCA1のようながん抑制遺伝子は、細胞のがん化を防ぐ働きを持ちます。家族性腫瘍の患者さんでは、両親から一つずつ受け取ったがん抑制遺伝子のうち、片方に生まれつき異常があるのです。

ジョリーさんの場合、母親も若くして卵巣がんと乳がんを発症していますから、母方の家系から異常なBRCA1遺伝子を受け継いだと思われます。なお、彼女には、パートナーだったブラッド・ピットさん(現在は離婚)との間に3人の実子がいますが、異常なBRCA1遺伝子は、この子供たちにも50%の確率で遺伝することになります。男性に変異型のBRCA1遺伝子が受け継がれると、若年性前立腺がんや男性乳がんを発症しやすくなるため、欧米では、予防的な前立腺全摘まで行われています。

前輪のブレーキが壊れた自転車

がん抑制遺伝子の一方が生まれつき働かなくなっていると、残るもう一方の遺伝子に傷がつくだけでがんが発生しやすくなります。これは、前輪のブレーキが最初から壊れている自転車で、坂道を下っているようなものです。後輪のブレーキが利いているうちは、一見、何の問題もないように見えますが、もし、後輪のブレーキも壊れれば大けがにつながります。両方のブレーキが壊れるまでには時間がかかりますが、ジョリーさんのように、どちらかがもともと壊れているケースでは、発症までの時間が短くなります。家族性腫瘍が若い人に多いのはこのためです。

ただし、最初にお話ししたように、遺伝はがんの原因の5%程度ですから、家族性腫瘍はあくまで例外的。一般的には、生活習慣の方がずっと大事です。がんで死なないためには、生活習慣と早期発見のためのがん検診が何より大切です。