第二十二回 2021年1月26日 「なぜ、私が……」「運が悪かったとしか」 がん治療医ががんになって思ったこと

膀胱がんを自己超音波検査で発見

実は、私もがん経験者です。2018年の年末に、膀胱(ぼうこう)がんの内視鏡切除を受けました。まだ、2年くらいしかたっていませんから、経験者というより「がん患者」と呼ぶべきかもしれません。

「自己超音波(エコー)検査」で見つけました。世界的にも珍しい例ですので、経緯を説明します。

外勤先の病院に超音波検査装置があり、自分自身で膀胱のエコー検査を行って、腫瘍を発見したのです。青天の霹靂(へきれき)でした。

東大医学部の先輩の病院で、がんが見つかる2年ほど前に肝臓に脂肪がたまる脂肪肝を自分で発見して以来、毎月エコー検査を自分でしてきました。

2018年の9月ごろから膀胱の左側の壁が多少厚く見えていました。そこで、12月9日、尿をためた上で入念にチェックしてみました。すると、左の尿管が膀胱に開口する「尿管口」の近くに15ミリくらいの腫瘍ができていました。

スマートフォンで検査結果の写真を撮り、後輩の泌尿器科医にメールで送信すると、「膀胱がんの可能性が大」との返事が来ました。翌日、同じ医師に内視鏡検査をお願いし、膀胱がんと確定しました。

麻酔が切れたら激しい痛み 我慢せずに薬を

日本人男性の3人に2人が、がんになる時代ですから、「がんになることを前提にした人生設計が必要」などと発言してきました。正直、まさか自分が罹患(りかん)するとは思っていませんでした。たばこは吸いませんし、運動は毎日行っていて、体重も若い頃のままです。「なぜ私が」と否認したい気持ちでした。

私がこのがんにかかった理由などありません。運が悪かったとしかいえないと思います。

治療は全身麻酔ではなく下半身の麻酔でしたから、電気メスによる切除の様子もモニターで見ることができました。幸い、40分という短時間で完全に切除できました。ただ、再発予防を目的に、膀胱内への抗がん剤注入も受けました。

麻酔が切れると下腹部に激しい痛みを感じましたが、痛み止めの処方をお願いして、楽になりました。この治療を受ける全員に痛み止めの処方が必要だと思います。痛みを我慢してよいことは全くありませんし、症状は本人しか分かりませんので、遠慮は不要です。

私は東大病院の放射線治療の責任者ですが、平成15年から26年まで、緩和ケア診療部長を兼任しておりましたので、緩和ケアのプロでもあります。しかし、実際に自分が患者にならないと分からないこともあります。今回のことで、早期がんでも緩和ケアが大切だと身にしみました。

がんが進行すると全摘、人工膀胱に

さて、膀胱がんは1万人に1人がかかる比較的めずらしいがんで、60歳以降の男性に多く見られます。危険因子としてはっきりしているのは、工場で使う特定の化学物質を除けば喫煙だけです。男性の膀胱がんの50%以上、女性でも30%程度は喫煙のために発生するといわれます。

がんは臓器のもっとも表面の上皮から発生して、外側に向かって広がっていきます。私の場合、「表在性がん」でしたから、内視鏡切除が可能でした。しかし、もし発見が遅れて、膀胱の筋肉の層にまでがん細胞が広がっていたとすると、全摘が必要となります。その場合、小腸の一部を切り取った上でおなかに人工膀胱を作る「回腸導管」が一般的です。

早期発見に役立つセルフチェック

がんは自覚症状が表れにくい病気です。まして、早期では、ほとんどの場合、何も感じません。膀胱がんも同じですが、痛みを伴わない血尿が8割のケースで見られ、早期発見のサインとなります。しかし、私の場合、顕微鏡で分かるような血尿もありませんでした。脂肪肝のチェックのために自分で行っていたエコー検査で偶然に発見できたのは本当にラッキーでした。「酒飲み」→「脂肪肝」→「自己検査」→「早期発見」の流れです。

膀胱がんの「自己超音波検査」は別としても、乳がんのセルフチェックなどはだれでも簡単にできるはずです。しかし、ある調査によると、乳がん経験のない女性の79%が「セルフチェックで見つけられる病気」と認識しながら、実際に定期的なチェックを行っている人は9%にすぎませんでした。

日本人はもっと自分の体を大切にするべきだと思います。