第二十一回 2020年12月22日 免疫の低下ががんを招く 現代人のストレスとがんの気になる関係

免疫へのブレーキ外してがんを攻撃 免疫チェックポイント阻害剤

コロナ禍での生活はストレスがたまります。第3波が広がるなか、「勝負の3週間」が終わりましたが、外出自粛は思うように進んでいないようです。みんな、ストレスの発散を求めているようにも感じます。このストレスは、免疫の働きを抑制する要因を指します。

がんと免疫は深い関係があります。私たちの体の中では毎日たくさんのがん細胞が発生していますが、免疫細胞がこれを排除し増殖するのを阻止してくれます。がん予防の点では、免疫の働きはとても大切です。私も膀胱(ぼうこう)がんを経験しました(一昨年の12月28日に内視鏡切除)が、一番ショックだったのは、自分の免疫力に自信を持てなくなったことです。

本庶佑先生が開発の道筋をつけたオプジーボは、「免疫チェックポイント阻害剤」と総称されています。免疫細胞は常に体の中を監視していて、細菌、ウイルスなどの他、がん細胞も異物として排除しています。しかし、免疫の働きが強くなりすぎるとアレルギーや関節リウマチといった自己免疫疾患などが発生してしまいます。このため、免疫力を自ら抑制する仕組みが備わっており、「免疫チェックポイント機構」と呼ばれます。

がん細胞は、正常な細胞から「進化」していく際に、いろいろな能力を身につけます。その一つが、免疫から逃れる「免疫逃避」です。がん細胞は、PD−L1という物質をつくり出し、免疫細胞に発現している物質(PD−1)と結合させて、攻撃にブレーキをかけます。オプジーボは、免疫細胞のPD−1と結合することで、PD−L1によってかけられたブレーキを解除し、免疫細胞による攻撃を再開させるのです。

絶え間なくストレスにさらされる現代社会

さて、ストレスはがんの引き金になるとよく言われますが、ストレスを抱えていると本当にがんになりやすいのでしょうか?

人類の進化を振り返ると、もともとストレスは敵に襲われるなど、生命の危機に直結するような事態に遭遇したときに生じるものでした。このようなストレスを感じると、ストレスホルモンが分泌され、交感神経を刺激して体が「戦闘モード」に入ります。すると免疫システムが抑制され、心拍数や血圧を高めたり、逃げるために走る方にエネルギーを振り向けたりするのです。

実は、免疫機能の維持には莫大なエネルギーが必要なため、生命の危機が迫るような事態では、免疫にコストをかけてはいられないのです。

しかし、生物が進化をとげた野生環境では、このようなストレスは一時的なものであり、危機を回避できればストレスホルモンは減り、体はいつもの状態に戻ります。

これに対して、現代社会のストレスは、主に仕事や人間関係によってもたらされるため、常にストレスを感じるような人が増えています。絶えずストレスにさらされると免疫が抑制され続けるため、がんのリスクが高まるのではないかと考えるのはとても自然です。

リスク上昇 男性で高く 国立がん研究センター調査

ところが、これまでの疫学調査で、ストレスとがんとの関係について、強く示すデータはほとんどありませんでした。そうしたなか、2018年1月、国立がん研究センターが自覚的なストレスが長く続くと発がんリスクが高まるという研究発表をしました。全国の約10万人を約20年追跡調査した結果です。

これによると、調査開始時に自覚していたストレスと、その後のがん発症との関連については有意差がありませんでした。しかし、調査開始時と5年後のアンケートの両方に回答した約8万人を分析したところ、どちらの時もストレスが低いと答えたグループと比べて、どちらの時もストレスが高いと答えたグループでは、がんになるリスクが11%も上昇していました。

ストレスとがんとの関連は男性のほうが顕著で、特に肝臓がんや前立腺がんはストレスが高い人でリスクの上昇がみられました。長期的なストレスは、特に男性のがん発症リスクを高めることが示唆されたわけです。男性のがん発症率は女性より3割も多いのですが、職場などでのストレスが関わっているのかもしれません。