第十八回 2020年10月27日 座りすぎはがんを招く

男性の膵臓がん 女性の肺がんのリスク増加

在宅勤務がニューノーマルになりつつあります。通勤や得意先への訪問などがなくなり、自宅で長時間座ったまま仕事を続けると、がんを含めた病気のリスクが上がります。

日本でも、仕事中に長時間座っていると発がんが増えるという研究結果が出ています。国立がん研究センターの研究グループは、50~74歳の約3万3000人を追跡調査した結果、座ったまま仕事をすることが多い男性では膵臓(すいぞう)がんが、女性では肺がんが有意に増加することを確認しました。 

オーストラリアなどの研究によると、コロナ禍以前から、日本は世界の中でも座っている時間が長い国として知られていま
す。日本人が平日に座っている時間は1日7時間と、調査対象の20か国中、最長でした。

アメリカでは座ったままの健康リスクが知られるようになっており、シリコンバレーの大企業を中心に、立ったまま仕事ができる「スタンディングデスク」が増えています。日本人にはそういう認識が欠けている上に、コロナ下でのアンケートでは、在宅勤務をしている人の8割近くが「座っている時間がさらに増えた」という結果が出ており、健康リスクを危惧しています。

座っている時間が長いほど運動不足になって、肥満になりやすいのは当然です。ただ、運動をしていても、座っている時間が長いとがんが増え、死亡率も高くなるというデータがあります。ですから、平日の座りすぎを週末のジムで解消するというわけにはいかないようです。「座りすぎ」と「運動不足」は別の問題として考えたほうが良さそうです。

発がんリスク1.82倍に

2020年6月、一流医学誌に掲載されたアメリカのテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究では、対象の約8000人に加速度計を装着してもらい、座っている時間と動いている時間を連続する7日にわたって、正確に調べました。座っている時間を3群(短、中、長)に分け、短い群を1とすると、長い群のがん死亡率は、1.82倍という結果でした。

WHO(世界保健機関)によると、喫煙が原因で年間700万人以上の人が亡くなっていますが、飲酒は300万人、そして座りすぎによる死亡は200万人とされていますから、大きな健康リスクといえます。

30分のウォーキングで発がんリスク8%減

座りすぎの健康リスクを帳消しにするためには、1日に60分以上の運動が必要とされており、これは現実的には実行が難しいでしょう。先のMDアンダーソンがんセンターの研究では、座っている時間30分をウォーキングなど軽度な運動に充てることで、発がんリスクを8%下げることができるとしています。さらに、中度の運動に置き換えれば31%ものリスク低下につながるといいます。

なぜ座りすぎると死亡リスクが高まるのか。詳しいメカニズムはまだわかっていませんが、長時間座り続けることで血流が悪化し、筋肉の代謝の低下、その他のホルモンバランスの変化など、複数の要因が関係しているといわれています。

では、具体的に座りすぎによる健康リスクをどう軽減するか。仕事中でも、動くことを意識することが大切です。30分に1回は席を立って、トイレに行ったり、飲み物を取りに行ったり。それが難しいなら、軽いストレッチやふくらはぎを軽くもむとか、足の指でグーパーを作るような動きをします。

「健康ゆすり」の普及を

おすすめしたいのは「貧乏ゆすり」です。在宅勤務なら人目を気にする必要はありませんが、いかんせんネーミングが悪い。私は「健康ゆすり」と呼び名を変えて普及させたいと考えています。

座りすぎはがんを増やすだけでなく、心にも悪影響を及ぼします。1日12時間以上座っている人は、6時間未満の人と比べて、メンタルヘルスの悪い人が約3倍も多いという調査もあります。

コロナ禍がきっかけとなり、新しい日常として定着しつつある在宅勤務ですが、健康のためには、長時間座り続けて仕事をしない工夫が必要といえそうです。