第十七回 2020年10月13日 前立腺がん検診で命を救われるのは1000人のうち1人 治療で50人が勃起障害に

生命にかかわらないがんの「過剰診断」が、国レベルで行われた例として、 前回のコラム では、韓国の甲状腺がんを取り上げました。1999年に、乳がん検診のオプションとして甲状腺がん検診が受けられることになると、2012年には甲状腺がんが、女性のがんの約3分の1を占めるまでになったのです。その一方で、この病気による死亡率が下がることはありませんでした。

実は、日本でも過去に、国家レベルで過剰診断が行われたことがあります。小児がんの一種である「神経芽細胞腫」(神経のもとになる神経堤細胞が悪性化したもの)の集団検診です。

神経芽細胞腫に見る「過剰診断」

神経芽細胞腫は、1歳未満で発見されるとほとんどが治るのに対して、1歳以降では死亡率がぐっと高まります。そこで、1984年から生後6か月の乳児全員の尿を検査し、この病気を早期に発見する国レベルの検診が始まりました。2003年度まで、毎年、国が3億円、都道府県が6億円の経費を負担し、累計3000人近くに神経芽細胞腫が発見されました。

検診を行ったことで、この病気の発見率は2倍近くになりました。しかし、死亡率の減少は確認されませんでした。手術や抗がん剤の副作用で亡くなるケースがあった一方、検診で見つかったがんが自然退縮した例も多数見られました。なお、甲状腺がんでも、自然な退縮や消滅はさほど珍しくありません。

そして、ついに03年に厚生労働省がまとめた報告書を受けて、全国で行われてきた神経芽細胞腫の集団検診は中止されることになったのです。

前立腺がんの5年生存率は98.8%

実は、もう一つ、過剰診断が問題となっているがんがあります。高齢男性に多い前立腺がんです。

19年12月の国立がん研究センターの発表では、がん全体の5年生存率は66.4%で、臓器別に見ると、前立腺がんは98.8%と最も高くなっています。早期のステージ1から手術が難しいステージ3まで、いずれの5年生存率も100%です。

重要なのは「治療が必要な患者」の選別

わずかな例外を除き、前立腺がんで命を落とすことはまれなのです。そのため、早期発見が無駄になる場合が多くなります。実際、腫瘍マーカー「PSA」による前立腺がんの検診の利益と不利益について説明するとこうなります。「受診者1000人中、検診で死亡を回避できるのは1人。一方で、手術などの治療によって50人に勃起障害、15人に排尿障害が発生」

過剰な治療を避けるため、早期でタチの悪くない前立腺がんに対しては、「監視療法」が国際的な標準治療として確立しています。「療法」という名前がついていますが、実際には治療はせず、慎重に経過を観察します。

欧米での大規模な研究でも、監視療法を採用した場合の10年生存率は、手術や放射線治療と差がないことが分かっています。

ただし、前立腺がんによる死亡がゼロではないのも確かです。本当に治療が必要な患者を選別できる簡便な検査法が見つかることを期待しています。