第十五回 2020年9月8日 新型コロナと原発事故の共通点…「経験ない」「見えない」リスクにどう向き合うか?

コロナ禍は、東京電力福島第一原発事故後の「低線量被ばく問題」と重なる部分があると感じています。これまで経験したことがなく、目にも見えない、非常にやっかいな相手であることは確かに共通します。人間は、未知のリスクには必要以上に身構えてしまい、過剰な反応を示す傾向があります。

放射線より大きかった避難による健康被害


福島第一原発では、東日本大震災による津波の影響で非常用発電が失われ、「全電源喪失」となりました。炉心溶融(メルトダウン)が起こり、放射性ヨウ素やセシウムなどの放射性物質が広く放出されました。この未曾有の事故のため、福島県では16万人にも上る県民が避難し、事故から9年以上が過ぎた今でも、約4万人が避難を続けています。私は同県飯舘村の支援を続けてきましたが、避難に伴う生活環境の変化は、健康状態に悪影響を与えます。

原発事故を含む震災の関連死は、昨年度、福島県で32人増え、計2304人になりました。次に多い宮城県の928人、岩手県の469人を大きく上回り、震災関連死全体の6割が福島県で発生しています。福島県での震災関連死の約3分の2が、原発事故による避難の影響で病気が悪化するなどの「原発関連死」という報道もあります。

相馬市、南相馬市の避難者を対象とした調査では、糖尿病が6割も増えていました。飯舘村の避難者でも、肥満、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常などが明らかに増えています。糖尿病にかかると 膵臓すいぞう がん、肝臓がんを発症するリスクは約2倍になり、がん全体でも2割ほど増えることが分かっていますから、がん予防の面でも避難の影響は甚大です。

その一方、放射性物質による影響は、予想以上に軽微なものでした。県民の被ばく量、とくに、食品からの内部被ばくはほぼゼロに抑えられており、国連科学委員会も「がん患者の増加は考えられない」などと報告しています。

大規模な避難は、結果的には、県民の健康状態にマイナスに作用したと言わざるを得ません。

リスクの大きさを正しく測る

コロナ禍を軽視するつもりはありませんが、これまでの死亡数は1000人台。このところ感染者数が再び増えていますが、死亡者数はそれほど増えていません。

医療現場では、命に関わらないがんを見つけてしまう「過剰診断」が問題になっています。コロナ感染に関しても、若い世代の無症状感染者の数に一喜一憂しないことが大事だと思います。

マスクの着用や手洗いのためと思いますが、インフルエンザの患者数は激減しています。厚生労働省の推計によると、3月1日時点の全国の累計患者数は約397万人で、前年同期(約1024万人)の4割を下回りました。ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎もインフルエンザと同様に、例年よりずっと減っています。皮肉なことに、今年は、ウイルス感染症による死亡が例年より少ない年になるかもしれません。

一方、3〜5月のイベント中止による経済損失だけで3兆円に上ります。経済全体に与える影響は甚大であり、仮に1年間で感染が収束したとしても、向こう19年間で自殺者が累計約14万人増えるとの予測もあります。

目の前に新たなリスクが出現した際、そのリスクの大きさを正しく測った上で対処しないと、別のリスクを背負い込むことになります。新型コロナ感染症問題が、福島第一原発事故の二の舞とならないことを祈ります。