トップページ知って得する講座あなたはこの「医者にあるまじき発言」を冷静に読めるか。

あなたはこの「医者にあるまじき発言」を
冷静に読めるか。

MAG2NEWS ライフ 2018.02.23.より転載

「遠慮も忖度も一切抜き、医者だから見える真実が詰まった比類なき一冊」と謳う本が話題になっています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが取り上げているのは、現役医師が著した新書。著者が提言する「国民皆保険」を破綻から救う方法とは?

里見清一『医者の逆説』を読んだ。日本赤十字社医療センター化学療法科部長、新潮新書6冊目。「我々は膨大なツケをすべて先送りして、つまり我々の子や孫の世代に押し付けて、自分たちの『最新医療』の成果を謳歌している」との主張は、患者の命を第一に考えるべきという通常の医療者の立場にある者からは「医者にあるまじき発言」と非難されることが多い。

一方で「誰もが思っていることを言ってくれた」という反応も少なくない。だったら誰もが言えばいいのに、そういう状況にはない。そこには何らかの配慮、忖度が働くからだ。この本はその忖度のメカニズムを解析し、剥ぎ取り、「誰もが思っていること」を明るみに出す。端的な例が、筆者に原稿を依頼しながら、結局ボツにした読売新聞東京本社メディア局の言いわけを暴露した章だ。

まず、ヨミウリ・オンラインに送った「高額医薬品と日本の危機」というコラムの要約です。(※全文は、別途転載しました)

日本ではずっと命の問題について、コストを度外視してきた。他のことは最低限の保障で済ませているのに、医療のみ最善を全員に提供することを前提としてきた。その実態はコストを次世代にツケとしての先送りだ。国民皆保険が破綻すれば何の保障もなくなるのは明らかだ。

それを回避するために、現時点で誰かに痛みが伴う変更をするしかない。「最善」を諦め「最低限」に引き下げることを含めて。それは公平に。たとえば、75歳以上の高齢者へは高額薬剤による延命治療を差し控え、その代わり対症療法・緩和医療を充実させるべきだ。年齢は最も公平な基準である。次世代を巻き込む破滅を回避するための、これ以上有効な方策はない。

……素晴らしい!

ところが、読売の幹部から待ったがかかる。「高齢者は死ねというのか」「十分に生きたから年寄りはいらないというのか」といった異見が出かねないから、問題を提起するところでとどめておけないか、と狼狽えているのだ。この見解は著者のものであって、読売は違いますとでも書いておけばいいではないか。

あるいは反論するだれかの代案を、より大きく掲載すればいい。異論が出ないオピニオンなどない。「慎重な議論が必要だ」「考慮すべき問題だ」など、突っ込み予防の表現は、読売も社説でよく使っている。そんなことばかり書いているうちに、読売は言論の本質を失ったのではないか。

なんてステキな指摘。

高額医療の問題は「金が足りない」というだけだから、負担増するか、給付制限をするか、その両方をするか、それしか解決方法はない。誰かが不利益にならなければ、次の世代が破滅的な不利益を蒙る。我が世の春を送る高齢者が担うのは当然だ。多くの高齢者が「自分たちは逃げ切れるけど、これからの若い人たちは大変だね」と同情している。逃げ得は許さない。

(私も高齢者だが)

延命治療の年齢制限、大いに賛成である。このまま誰もが口をつぐんでいたら、「負ける、と誰もが思っていた」戦争に突入したのとまったく同じ構図ではなかろうか、と著者。「本質は医学の進歩(医療の高度化)と人口の高齢化であって、誰が悪いわけでもなく、誰にも止められないのです」。

嗚呼…。
--------------------------------------------------------------------

『第5章「他人事」感覚が支配する言論の荒野』から抜粋引用

以下は、読売新聞東京支社のメディア局というところから、ヨミウリ・オンラインの「深読みチャンネル」なるコラムに、高額医薬品と保険財政の問題について寄稿を依頼されて書いた文章である。実のところ、『医学の勝利が〜』の序文と重なる部分も多いのだが、そこは御勘弁いただいてまずはお読みいただきたい。

高額医薬品と日本の危機

癌に対する免疫療法剤ニボルマブ(商品名オプジーボ)には、その効果に対する期待が高まっていましたが、我が国でも2014年に悪性黒色腫に対して、次いで2015年末には肺癌の大部分を占める非小細胞肺癌に対して承認されました。

癌に対する治療薬は副作用がつきもので、場合によっては命に関わることもあります。残念ながらニボルマブも例外ではなく、薬剤性の肺炎などで亡くなられる方もおられます。一方でこの薬の「有効率」は肺癌に対しては20〜30%内外で、そんなに高くはありません。それでもこの薬は「画期的」なものです。

なぜなら、従来の抗癌剤では、「有効」な患者さんでも効果は数か月しか持続しませんでした。特定の遺伝子異常を持つ腫瘍に対する分子標的薬剤では1〜2年効果が続くことがありますが、それでも最終的には効かなくなって、腫瘍は再び悪化することがほとんどです。ところがニボルマブでは、「有効」な患者さんでは年単位で効果が続き、もしかしたら「治る」かも、と期待されています。これは従来の治療ではなしえなかったことです。

ただ、この薬は、非常に薬価が高く、体重60kgの人が使うと1回133万円、投与は2週間に1回ですから年間では3500万円かかります。(註:2017年2月の薬価改定で、この値段は半分に引き下げられた)。ただし、日本は国民皆保険に加えて高額療養費制度によって、患者本人が負担するのはその2〜5%以下で済みます。
--------------------------------------------------------------------
厚生労働省は2018年3月5日、4月からの薬価(薬の公定価格)を告示した。がん治療薬「オプジーボ」は現在の100ミリグラムあたり約36万5千円から約24%下げて約28万円とする。2014年に皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)の薬として保険適用された時は約73万円で、当初から6割超下がることになる。
--------------------------------------------------------------------
では残りの大部分は誰が負担するのかというと、現役世代が払う保険料と税金です。悪性黒色腫の患者さんは日本では数百人と少ないのですが、肺癌は数万人規模で、単純に計算するとトータルのコストが数千億もしくは兆の単位になってしまいます。日本の医療費40兆円、うち薬剤費は10兆円程度ですから、非常に大きなインパクトを持ちます。

しかもこれは、「一つの病気(肺癌)に対する一つの薬」にすぎません。ニボルマブは他の癌でも承認が見込まれています。また同じように効く、もしかしたらもっと効く、そしてもっと高くなる薬も次々と開発されています。そしてもちろん、病気は癌だけでなく、他の領域でも高額の新薬はどんどん出て来ます。これは医学の進歩を反映しているのですから、止めようがありません。そして、高齢化によって、癌をはじめとする多くの病気の患者数は増えていきます。これも止めようがありません。

そうするとどうなるか。日本ではただでさえ少子高齢化によって、生産年齢人口が減少し、すなわちそのコストを「払う」側が少なくなっていますので、負担は際限なく増やすことはできません。普通に考えると、国民皆保険の維持は不可能でしょう。ちなみに公的保険制度が日本ほどないアメリカでは、薬はあっても「高くて払えない、使えない」という患者が激増しています。また、医療費に耐えかねて破産する人も沢山います。日本ではシステムとして、もしくは国家財政が丸ごと、破綻するのです。ギリシャのようになるといってもよいでしょう。

なぜ薬はこんなに高くなったのかというと、別に誰かがあくどい商売をしているからではありません。医学の進歩を反映して、開発費もうなぎ上りで、9年で倍増ペースだそうです。現在、一つの新薬を世に出すのに、約3千億円かかるとも言われております。ですから無理矢理薬価を下げると、製薬会社は経営が成り立たなくなり、薬を作ることから撤退せざるをえなくなってしまいます。それでは元も子もありません。

ではどうしたらよいのか。ニボルマブに関しては、治療前に誰に効いて誰に効かないのか判定できない、またいつまで使えばいいのか不明で、さらにどの時点で効果がないと諦めるのかも分かりにくい、という特徴があり、結果的に「無駄打」が多く出ます。

我々は、早期に効果を見極めて、より適切で効果的な治療につなげる研究を開始しています。また、下げれば良いというものではないにしても、費用対効果の解析によって、適正な薬価に改定するという検討も必要でしょう。ちなみに、我々の研究に出費してくれるのは、ニボルマブを製造販売している製薬企業です。企業も、「無駄な使用でも、売れればいい」などと考えているわけではないのです。

ただ、それらの努力をもってしても、根本的な解決は難しく、せいぜい破綻を先送りするくらいの効果しかないでしょう。繰り返しますが、本質は医学の進歩(医療の高度化)と人口の高齢化であって、誰が悪いわけでもなく、誰にも止められないのです。

我々はずっと、命の問題について、コストを度外視してやってきました。他のことは「最低限(ミニマム)」の保障で済ませるところを、医療についてだけは「最善(オプティマム)」を全員に提供することを前提としていました。しかし、意図は正しくとも、その実態は、コストを次世代にツケとして先送りしてきたのです。国民皆保険が破綻してしまえば、最善はもとより最低限も保証されなくなるのは明らかです。それを回避するには、現時点で誰かに痛みが伴うような変更を行わなければなりません。「最善」を諦め「最低限」に引き下げることも含めて、です。そしてそれは、公平なものでないといけません。

これは非常に不愉快な話です。必然的に、命に値段はあるのか、そしてその値段は、例えば年齢によって違うのか、というような議論なります。「乱暴」の謗りを受けるのを承知であえて言えば、私は、(太字始)例えば75歳以上の高齢者へは高額薬剤による延命治療を差し控え、その代わり、対症療法・緩和医療を充実させるべき(太字終)と考えています。年齢は、最も公平な基準です。次世代を巻き込む破綻を回避するため、私はこれ以外の有効な方策を思いつきません。また今まで誰からも、代案をお聞きしたことがありません。あれば是非教えてください。

このようなことは、医者が口だすべき話でない、と批判する人もいます。しかし、では他の誰かが言い、誰が動くべきなのでしょうか。ニューヨークのスローンケタリングがんセンターの先生方は、「誰もこの問題を回避している」と指摘した上で、それだったら指導的な立場にいる医療者が行動するしかない、とおっしゃっています。(2012年、ニューヨークタイムズ)私はそちらの方が正しいと思います。

私はこの問題を提起して、個人的には何のトクもありません。ただ嫌われるだけでしょう。ここで「眼前の患者にのみ集中し、すべての人間を救うのが医者の役目」と言って済ませることが出来たらどんなに楽か。もしくは黙っていて、破綻が現実化した際に「ほら見たことか」と言えばよいだけなのかも知れません。しかしそれは現実から目を背けることに他なりません。

私は奉職する日本赤十字社医療センターの隣の、赤十字看護大学で、非常勤教員として学生さんを教えています。医療への情熱と善意に溢れる彼ら彼女らに、そして彼ら彼女らを必要とする将来の患者に、我々は破綻した国家と崩壊した医療現場を、すなわち焼野原と廃墟を引き継ぐのでしょうか。このままでは我々は、スペインの画家ゴヤが描く「我が子を喰らうサトゥルヌス」になってしまうのです。

以上、読売の担当記者さんに送った全文そのままであるが、結論を先に書けば、この文章はヨミウリ・オンラインに掲載されることはなかった。
--------------------------------------------------------------------

ここまで、里見さんが自ら責任を取って、仰っていることをなぜ、読売は読者に開示しなかったのでしょうか。

以下、『第5章「他人事」感覚が支配する言論の荒野』の最後を転載。
--------------------------------------------------------------------

なんか、ガッカリするね。マスコミが取り上げるのは、あくまで己の商売の一環としてであって、「世論の反発」を恐れ右顧左眄(うこさべん)しつつ、スポンサーの意向にビクビクしながら、なのだ。現場の記者さんの中には熱意をもった人もおられるようだが、いざ表に出る段になると「大人の事情」が優先する。まるで全部他人事のようじゃないか。「真剣な議論が必要だ」なんて決まり文句が、余計に空しく感じられる。

そして聞いたところでは、かなりの高齢者が日本の将来について「自分たちは逃げ切れるが、これからの若い人は大変だね」と「同情」しているのだそうだ。我々の周囲に広がるのは、どこまでも「他人事」の感覚が支配する無限の荒野のようである。



                         トップページに戻る               ▲ページの先頭に戻る

サイトマップ商品一覧
ふんわりシフォン日記お客様のご感想集Mrs.KURIの簡単レシピ集ふれあい写真館

FLOURひろ:〒678-0172 兵庫県赤穂市坂越1331-1:tel 0791(56)5377