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箸が消えてゆく

11月22日のHONZ「今週はこれを読め!」の東えりかさんの書評タイトルが、「白いご飯は味がないから苦手?!『残念和食にもワケがある』」で、気になって詳細を読み、これが現実なのかと驚かざるを得ませんでした。東さんの「まずはこの写真をみてほしい」をご覧ください。
<http://honz.jp/articles/-/44509>

岩村暢子著「残念和食にもワケがある」から、「箸が消えてゆく」を転載しました。
是非一読ください。
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「お箸?ウチは使わないですねー。ご飯やお味噌汁を食べるのもスプーンなので」と、外国人のようなことを言う主婦(37歳)に初めて会ったのは、2013年のことだ。この家の1週間の食卓写真で箸が出ていたのは、素麺やラーメンを食べた数回しかない。お父さんもお母さんも小学生の子どもも、いつもスプーンやフォークで食事をしている。

箸をあまり使わなくなってきたのは、この家庭だけでない。気づくと調査開始以来20年の間に、家庭の食卓における箸の出現率はずいぶん低下している。

理由は大きく三つある。まず食べるもの自体の変化が大きく影響している。

例えば朝食。シリアル、バナナ、ヨーグルト、そして飲み物など、よく食べられているのは箸を使わないものばかり。直接手で食べるか、使っていてもスプーンだ。また、昔ながらの卵かけご飯、納豆ご飯、お茶漬けなどが出ていても、箸で食べているとは限らない。

夕食も、パスタや、カレーライス、オムライス、チャーハン、そしてご飯の上に何かを載せた丼ぶり物などワンディッシュ料理が増えていて、いずれもスプーンやフォークで食べることが多い。

おかずの肉料理や卵料理にはフォークが便利だし、魚料理ですら「骨抜き魚」や「切り身魚」が増えて、箸がなくてもフォークで食べられる。パック入りの冷奴などは、箸を使うのではなくスプーンですくって食べるものになっているようだ。

箸が使われなくなってきた二つ目の理由は、食べ方の変化にある。

例えば、プレートなど持ち上げて使わない器の使用機会が増え、箸よりスプーンやフォークの方が食べやすくなった。

そして孤食、つまり一人食べの増加も見逃せない。なぜなら、一人食べは必然的に「ながら食べ」になりがちで、「ながら食べ」に箸は不便だからだ。

一人で食べる時に、何もしないで食事だけに専念する人はほとんどいない。たいていはスマホを弄りながら、テレビや新聞を見ながら、パソコンを開きながら食べている。最近は運転しながら、歩きながら朝食を食べるお父さんの増加も見逃せない。

そうすると「ダイニングテーブル離れ」が進み、「テーブルに向かって両手を使って食べるような食事」を「面倒臭い」と感じるようになる。データにはそんな発言があちこちに出てきて、箸を使わずスプーンかフォーク一本で食べられるか、片手で摘まめるハンバーガーやお握りなど「片手食べ」の手軽さが求められている。

そして三つ目の理由は、箸使いを家庭で教えられなくなってきたことだ。箸を上手く使いこなせない大人が増えてきたからである。

「私(主婦自身)も箸はうまく使えていないので」「主人も変テコな持ち方だから」などの発言がとても多く、家庭で子どもに箸使いを教えられない親が明らかに増えている。いま、子どもたちに箸の持ち方を教えているのは、幼稚園や学校の先生、そして「エジソンの箸」と呼ばれるトレーニング用箸ではないかと思う。

「エジソン箸は、リングに指の入れ方だけ教えれば、いつの間にかお箸が使えるようになっちゃうらしいですよ」とトレーニング箸任せで他人事のように話す母親や、3ステップまであるというトレーニング箸をいろいろ与えて、「私はあまりうるさく言わないことにしている」親もいる。自身が正しく箸を使えないからだそうだ。

インタビューで「ウチの子は普通に箸を使えています」「息子は結構ちゃんと箸を持っています」と親が言う場合も、実際には必ずしもその通りではない。写真に写っている子どもの手元を見ると、2本の箸を棒のようにまとめて握っている「握り箸」や、2本の箸が真ん中で交差している「ばってん箸(クロス箸)だったりする。

でも、多くの親はあまり気にしていない。「どんな持ち方でも、基本食べれていれば大丈夫」(39歳)「自分なりの持ち方でも、食べているからいいと思う」(41歳)など、とても寛容、ないしはあまり関心がないと言った方が良いかもしれない。

話を聞いていると、子どもの箸の持ち方を厳しく言ったり躾けようとする親には、ある共通点が見られる。それは、自分も子どもの頃に親から厳しく躾けられたという人ばかりだということ。だが、そんな育ち方をした人は、もう少数派である。

ある主婦(35歳)は、「ウチの主人(35歳)は、子どもたち(8歳・5歳・3歳)に箸の持ち方をよく注意したりするんですけど、その時に子どもに言う根拠がとても面白いんですよ!」と、笑いながら話してくれた。

「例えば、テレビなんかで素敵だなと思った人が、食事シーンになって箸の持ち方が悪いとがっかりするでしょ、箸がきちんと持てないと大人として恥ずかしいよね。だから、ちゃんと持てるようになろうね、みたいなことを主人は子どもたちに言うんですよ」と。彼女自身は、箸がきちんと持てない人を見ても「がっかり」したり「恥ずかしい」と思ったりしないから、ご主人の子どもに対する説明が無理なこじつけ話のようで、可笑しくてしょうがないのだ。

大皿料理に添える「取り箸」も、変わってきている。「箸では料理を上手く掴めないので」と、大き目のスプーンやフォーク、サーバー、そしてトングを使うようになってきている。パスタだけではなく。素麺や冷麦など和風麺の取り分けにもトングが見られるようになった。

近年では、「子どもたちは、フォークで刺したりスプーンで口に入れられるものしか食べない」と語る母親もいて、子どもたちのために、さまざまな料理を一口サイズに刻んで出す家庭も少なくない。「箸を使わずに、手で摘まんだり楊枝やフォークで刺して食べれるものの方が、子どもがラクに食べられていい」と言って、箸を持たなくても食べられる食品を選ぼうとする親もいる。

そして、食卓写真には、ご飯やおかずにざっくりと突き立てられた「立て箸」や、焼き鳥の串や楊枝のように食べ物に刺して使っている「刺し箸」、茶わんやコップに差し渡して置かれた「渡し箸」もよく見る。昔の親は「行儀が悪い」と叱ったかもしれないが、いまの親は何のためらいもなく、そうしている。箸の置く向きがあべこべだったりする食卓写真は、もう珍しくない。
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以下は、「あとがきにかえて」から、抜粋、転載。

さて、作業が難渋したもう一つの理由は、「和食」をとりまく現実が想像以上に厳しくて、私にも決して受け入れやすい内容ばかりでなかった、ということである。誰だって、現実の良い所を見出し、できれば明るい未来を語りたいものだ。

ここに取り上げた家庭はすべて、「『食DRIVE』調査とは」で述べたように、1960年以降に生まれた親が形成する家庭である。つまり、いま子育て中のほとんどがそこに該当するに違いない。親が60台、70代の家庭ではもう子どもが独立しているか、同居していても子育ては終わっているからだ。

このような現代家庭の実態に根差して、私たちは次の世代に「和食」をどう伝えられるのだろうか。「和食」を通して、何を伝えられるだろうか。

そして何より、私たちは本当に「和食」や、和食を支えていた古くからのさまざまなものを、もう一度現実の暮らしの中に取り戻したいのだろうか。

ここに、それらを考えるヒントになる部分が少しでもあるのなら、今日も体力勝負のアナログ作業を続ける私は、とても嬉しく思う。
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以下は、「まえがき」のしめくくりを転載しました。

「和食」の「無形文化遺産」登録は、日本人が気づかずに失いつつある伝統的な日本の価値観や、人と自然、人と人の関係を「本当に私たちは取り戻したいのですか?」と、一人一人に問うているような気がするからだ。
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※この著書を文部科学大臣に読んで頂きたいと思いますが、如何でしょうか。

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以下、2018/02/09配信メルマガから追記

岩村暢子「教育がもたらした異様な食卓の光景」 
AERA 2/5号「この人のこの本」から転載

今、ニッポンの食卓はどうなっているのか?ご飯と味噌汁は必須のメニューではない。一汁一菜の意味が分からない。手巻き寿司に菓子パン、おにぎりにカップ麺といった「主食重ね」は当たり前。ペットボトルの麦茶で食事を流し込む。箸よりスプーン、茶碗は不要、マグカップで味噌汁。大人もお子様用プレート。ゴボウもタケノコもリンゴも硬いから嫌われる……。

奇をてらって特異な例を挙げているわけではない。親が20代から50代までのごくごく平均的な家庭の例だ。ではどんな調査がなされたか。

(家庭の食卓を調査して、今年(2017年)で20年目になる。これまでに、413世帯、8673食卓を調べ、1万5611枚の食卓写真を収集・分析し、のべ700時間以上のインタビューを実施してきた)(まえがきから)

岩村暢子さんは気の遠くなるような数の調査・分析を積み重ねることにより、家庭における和食が変容(崩壊)してきた事実を明らかにした。

『「家庭の食卓がこんなにひどくなっている、だから和食を取り戻そう」ではありません。問題の本質はその理由(わけ)なのです。それは今の50代半ば以下の世代が育った時代に関わってくる問題です』

親が50代の家庭の食卓も、20〜30代とそれほど変わらないとは?

「1960年以降に生まれた人はインスタント食品などの加工食品が拡大する時代に育ちました。70年はファストフード元年と呼ばれています。

育児の考え方も「我慢させない、子どもの意思を尊重」に変わったのです。さらに家庭科教育から実習時間が減らされ、家庭で子どもが炊事を手伝うことが減っていきます」

家庭料理が変容する契機は既に半世紀以上も前に始まっていた。今日の現実はまさに歴史的必然だという。それどころか、時の政府も政策として積極的に推進した結果なのだというから驚く。

「60年以降の方針は「料理をつくる教育から消費者教育にシフトします。今でこそ手抜きといわれることも食の合理化と高度化として推進されてきたわけです。そんな家族と食の関係、生活の変容を無視して和食の復権を説いたり、料理の知識をつければ変わると思うのはお門違いです」

異様な食卓の光景は教育がもたらした現実を照らし出す。調査は現在も継続中。岩村さんの執念が結実したアナログデータから見えてくるものは、この国の家族のありようであり暗澹たる未来である。ライター田沢竜次



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