トップページ知って得する講座あなたは今、この小噺で笑えますか

あなたは今、この小噺で笑えますか

田 實&中川恵一共著の「がん 生きたい患者と救いたい医者」で、鎌田さんが、「冷たい告知の言葉に負けず、笑いにあふれた生活をしながら丁寧な毎日を送り、つながりを豊かにし、そして希望をもちつづけること、これが大事だと思います」と仰っていますが、それを地でいく、全日本社会人落語協会副会長、樋口 強さんの「最近、あなた 笑えてますか」から、抜粋転載しました。ご紹介します小噺で今、笑えますか? お試し下さい。

▼お変わりありませんか

「お変わりありませんか――」

私の落語はいつもこの言葉で始まります。今日は昨日と変わらない、明日も今日と同じ日でありますように。この変わらないということが輝いて見えるのです。普通のことが普通にできるということがうれしくなるのです。


目が覚めたら、今日も明るい同じ朝

特別に何もないけど、いつもと同じお正月

約束もしていないのに、今年も咲いたあのサクラ

お祝いもしないけど、今年も迎えた誕生日


明日が来るのは当たり前、手帳にスケジュールを書き込むことに何のためらいもない。来年もやってくることは疑わない。これが普通の人です。

ところががんという病気に出会うと、このことが当たり前ではなくなります。明日という日の確かな保証がなくなります。そういう気持ちになるのです。

ここから、自分に一番大切なものって何だろう、って考え始めます。すると、この「変わらないことやもの」がとても愛おしく見えてきます。かけがえのない宝物のように輝いて見えてきます。


企業人であったころ、日々の行動規範として一番大切にしていたことは、「昨日とは何かが違う今日であれ」でした。

三十年間勤務した東レでの長い会社生活の中で、このことを自分にも課してきましたがスタッフにも求めました。いつも新しい何かを求めて疑問を持ち、考え行動することが新たな発見や創出につながるからです。

「どんな小さなことでもいい。今日の新しい発見は何ですか」

と、自分に問いかけてみる。疑問に思うことがあれば、「それはなぜ?」を三回繰り返してみると、本当にわからないことが何なのかが見えてくる。ここからたくさんの知恵が生まれました。

仕事はこれでいいんです。でも、いのちを生きるときは違うんです。


がんになってもいいじゃないですか、明日が来れば。

がんが消えなくたっていいじゃないですか、大きくならなければ。

転移してたっていいじゃないですか、生きていれば。


「明日が今日と同じ日でありますように」、という願いが最初にあるんです。

これが生きる原動力になります。ここから二つ目のいのちが始まるんです。


お変わりありませんか――。

この言葉の後ろに、一本のまっすぐな道が目の前に広がります。

私の落語「病院日記」の中に『マニュアル病院』という噺があります。傑作に仕上がった自信作の一つですが、ストーリーを要約するとこんな話です。

ある病院での光景です。一つの医療トラブルをきっかけにして、今後の医療事故や医療ミスなどのマイナス要素を防ぐために、長年かけて作り上げてきた患者のプラスになる財産を惜しげもなく捨て去り、医療業務を完全マニュアル化したある病院があります。しかし、一つだけ入院患者がうれしくなる施策が残っていました――。

この病院では、年に一度のアニバーサリー(創立記念日)には、入院患者さんに一泊二日の外泊が許可されるんです。日頃の夢を実現して元気になってまた翌日からの治療を頑張ってほしいという施策です。長期入院者には待ち遠しい記念日なのです。しかもこの二日間だけ本人に限り有効な十万円のクーポン券が付いていて自由に使っていい、という特典付きです。

この記念日が近づくと、あちこちのサロンでは仲間同士の情報交換会が開かれます。「がんサロン」では、この日に外出できるよう抗がん剤の治療計画を合わせ込んで楽しみにしているたくさんの人たちで溢れかえっていました。


さあ、もうすぐ待ちに待った外泊日です。クーポン券もあります。日頃願っている一番したいことをやりましょう。とっておきのやりたいことをみんなで順番に言いましょうよ、お互いの参考のために。


「おれ、ラーメンが食べたい」

「電車に乗りたい」

「スタバでコーヒー飲みながら友達と話したい」

「普通の服着て道を歩きたい」

「わたし、家に帰りたい」……。


叫ぶようにしてしゃべるみんなの目が輝いています。そして、やりたいことやほしいものは、誰もができる普通のことなのです。地位や名誉や財産なんかなくてもその気になれば誰でもが手に入れることができるものでした。

この普通のことを手に入れるために、つらい治療を乗り越えることができるんです。患者にとっては治療をすることは目的でなくて手段です。この病気を治してその先に本当にしたいことが見えていれば大概のことは乗り越えられるんです。

その「本当にしたいこと」をしっかり持っていることが大切なんです。どんなときでも見失わないようにすることです。

十万円クーポン券はみんなが使わずに持って帰ってきました――。

こんな話です。

今あなたが一番したいことは何ですか。
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▼笑いは最高の抗がん剤

「笑いは最高の抗がん剤」――。

この言葉は、手術直後の数度に及ぶ抗がん剤で体も心もボロボロになり、先に希望も楽しみもなくなっていたときに、何気なく思いついた言葉です。この言葉がポッと灯った明りのようにその後の“いのちのナビゲータ”となったのです。


きっかけは妻が病室に持ち込んでくれた落語のカセットテープでした。

「気分のいいときに聞いてみたら」

気分のいいときなんてないよ――。と思いながら引出しにしまいました。

抗がん剤治療の連続で神経が高ぶり眠れないある夜に、ふとこのテープのことを思い出しました。しまいこんだテープをとりだしてみると、その中に古今亭志ん生師匠の十八番「火炎太鼓」がありました。自分の手は迷わずにこのカセットをつかみ、指は無意識に再生ボタンを押していました。


「バカがこんがらがっちゃたよ、この人は」

「馬鹿な目でしょう。あの目はバカメと申しまして、おつけの実にするしかしょうがないんで」

「望みの値段で買ってやるから手一杯申してみろって言ったら、手ぇいっぱいに広げて、何なんだ、それは」

「世の中ぁ、ついでに生きてんだ」……。


次から次に飛び出してくる一つひとつのフレーズが自由奔放、天衣無縫な言い回しで、真っ暗な病室に志ん生師匠の高座がよみがえってくるんです。このお約束のセリフの場面に来ると思わず吹き出しながら大笑いしてるんです。何度聞いても笑ってしまうセリフの連続です。ふらふらになった体と頭でも笑えるんだ。そして笑った後は不思議に体が軽くなって頭がすっきりしてるんです。

「あぁ、生きているんだ、オレは」

この笑いがこれから歩いていく道を後押ししてくれんだ、と気づいたのです。


人それぞれに笑えることって違います。それは、それぞれの歩んできた人生や価値観が違うからです。でも、笑うと気持ちがすっきりするってことを、私たちは理屈や知識ではなく体験的に知っています。忙しいストレス社会を生きているうちについ忘れているだけなんです。

薬は体に効きますが、笑いは心に効くんです。大声で笑ってみると、今まで大きな悩みだと思い込み苦しんでいたことが、うそのように消え去り、もうどうでもよくなります。そして笑いや笑顔は一瞬にして伝わり、その場の空気を和ませてくれます。心の奥深くまで届いた笑いはいつまでも残って消えることはありまえん。まさに「笑いは最高の抗がん剤」だ、と思った瞬間です。


笑わせてもらうより、笑わせてあげませんか。あなたの一言で笑った相手の笑顔が自分に戻ってくるんです。この戻ってくるのがあなたの家族や親友の笑顔だったら、こんなうれしいことはありません。

自分を見守って支えてくれるこんなにたくさんの笑顔がある、って最高の宝物です。あなたにとってかけがえのない笑顔です。生きててよかったと思える瞬間です。


最近は、看護学校の卒業記念講演や戴帽式の記念講演に招かれることが多くなりました。

「がんの患者さんの立場から、看護師に望むことを、笑いを交えながら希望と勇気と元気が出るように自由にお話しください」長先生からの注文は盛りだくさんです。自由に話せる余地などどこにもありません。先日、千葉県のある看護学校の卒業記念講演でこんなことをお話ししました。


「皆さんは最近家族と一緒に食卓を囲んでいますか。生活のサイクルが違うからという理由でみんなが時間差食事になっていませんか。週に一回でもいいから家族全員がそろって晩ご飯を囲みましょうよ。そして、お父さんのダジャレを聞きましょうよ」

ここまで話すとほとんどの人が隣と頷き合いながらイヤぁな顔をしています。それでも構わずに次を続けます。

「笑いにはルールはありませんがマナーがあります。それは、褒めてあげることです。それもすぐに。これは何がおかしいのかな、と考えていると褒めるタイミングを失ってしまいます。すぐに褒めておいて、それから考えればいいのです。お父さんがこのときとばかりに始めます。

『このこんにゃく、おいしそうだね、いつ食べるの? 今夜食う!』

『みんなで紅葉みに行こうよぅ』

と、いつものようにダジャレを言います。そう、おやじギャグの連発です。
このとき、今までの皆さんだったらどうしていましたか。

『さぶぅ。お父さん、寒くなるからやめて』

って言ってましたよね。そのとき、お父さんはさみしそうな顔をしていませんでしたか」

会場からは頷きながら笑いと拍手が沸き起こります。

「大事なのはここです。すかさず、『うまいっ』って褒めてあげましょうよ。

『うまいね、お父さん』って娘から言われたお父さんの顔は喜びの笑顔でくしゃくしゃです。お父さんのこんな顔見たことないっていうくらいの笑顔になります。最高にうれしいのです。同じダジャレを何度も言うのもおやじギャグの特徴です。そんな時もイヤな顔をせずにこう言ってみてください。

『お父さん、昨日よりうまくなったね』

食卓にまた大きな笑いが広がるんです。楽しくなれることをたくさん用意していれば、毎日の生活が自然に笑顔になります。作り笑顔ではなくて体の中から輝いてくるのです。生活の中からにじみ出てくるその笑顔を、あなたがこれから出会う人たちにお裾分けしてあげてください」


この講演を聞いた方から手紙が届きました。内容はこうです。

「私は今一人暮らしをしながら学校に通っています。お話を聞いているうちに、急に実家が恋しくなりまして週末に帰りました。お話の中にあったように、うちの父は、よくあるおやじギャグ満載の父なんですが、家族が相手にしないのでいつの間にか、自分でしゃべって自分で受ける『じぎゃぐ(自ギャグ=自虐)』的父になっていました。今回は言われたとおり『うまいっ』って褒めてあげました。そうしたら、満面の笑みになり家族みんなで思わず大笑いでした。私の幸せはここにあるような気がします。これからは週に一回は必ず実家に帰ることにしました」


笑いや笑顔が戻ってくるうれしさ。何物にも代え難い心の財産です。

笑いは最高の抗がん剤――。

このキーワードが、全国のがんの仲間と家族を招待して一年に一度開く「いのちに感謝の独演会」につながっていったのです。
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▼あなたは今、この小噺で笑えますか

あなたは、一日に何回くらい笑ってますか。

テレビのバラエティ番組を見て「バカだなぁ」って笑うことはあるかもしれません。ですが、家庭の食卓で家族と一緒に笑ってますか。職場で同僚と心から笑ったことがありますか。そういえば久しく腹の底から笑ってないなあ、という人はぜひこの本を読み進めてください。


私は長年、「笑いは最高の抗がん剤」と説いてきました。その理由はたくさんあります。この本の中でその全貌が見えてきますが、最初に一つだけお話ししておきます。しかも一番大事なことを、です。

それは、「笑いは自分の心の中にある」ということです。コンビニで買ったり、人からもらったり、病院や薬局で処方してもらうのではなく、自分の中に持っているんです。ただ、忘れているだけなんです。だから、「笑うとすっきりする」という感覚を思い出せばいいんです。つらいとき、しんどいとき、もう手も足も一歩も前に出なくなったとき、自分の中にある笑う力に背
中を押してもらってください。笑いはそのお手伝いをしてくれます。


あなたは、次にご案内する小噺で今、笑えますか。無理に笑わずに率直に試してみてください。できれば声に出して読んでみましょう。


姐さん

『姐さん、姐さん、粋だねぇ』

『あたしゃ、帰りだよ』


どっこい

『オレは夫だ? フン、生意気言うんじゃないよ。下に“どっこい”をつけてごらんよ』

『おっと どっこい』


光陰

『昔から“光陰矢の如し”って言うよね、あれ、どういう意味?』

『光陰というものは、あぁ矢の如しなんだなぁ、ということだ』


三つとも声を出して率直に笑えた人は、仕事でも家庭でも理屈っぽくなく人生を楽しんでいる人です。

笑えたのが一つまたは二つの人は、仕事か家庭か自分自身に多少の悩みやストレスがありそうです。

まったく笑えなかった人は、心身がかなり疲れているようです。この本を最後まで真剣に、そして一気に読んでみてください。

小噺で説明会を開くのは野暮ですが、三つとも寄席の世界では有名な小噺です。落語好きな人は一度や二度はきっと聞いたことがあるはずです。それをわかりやすいネタから手の込んだネタへ、順番に並べてみました。

最初の「姐さん」は、凝縮された短い会話の中で、「帰りだよ」の一言に姐さんの毅然とした生き方が見え隠れします。そしてオチもダジャレではありません。

次の「どっこい」は、江戸っ子のおかみさんの歯切れのいい啖呵です。おかみさんが元気な家は明るく笑いが絶えないものです。夫婦喧嘩になっても最後はおかみさんのこの一言でわぁーと笑っておしまいになれるのです。うちでもカミさんの決め台詞はいつもこの一言ですが、最近もう一つ増えました。

「ボクって顔じゃないよ、下に人参をつけてごらんよ」

「ボクニ(ネ)ンジン」

家族のありがたさを感じる小噺です。

三つ目の「光陰」は、古今亭志ん朝師匠が気分のいい時によく高座にかけた逸品です。

だから何なんだよ、これのどこがおかしいんだよ、当たり前じゃないか、と理屈を言わずに何度も声に出して繰り返してみてください。

これは疲れているとなかなか笑えません。あなたが笑えるようになるまで演ってみてください。当たり前だからおかしいのです。繰り返すほどに味わいが出てきて、人生の極みを感じる小噺です。


これらの小噺は声に出して読んでほしいのです。

声に出すことで完成された小噺のリズム感を味わえるだけでなく、自分の声を聞いてあなたの生き生き度も自分でチェックができます。元気な時は声が踊っています。小噺も生きていて自分の声に思わず笑ってしまいます。

その逆に疲れているときは声にも張りがなく、「こんなの何がおかしいの?」と笑うことに嫌気がさすものです。

でも逃げずに声を出して繰り返しているといつの間にか笑っているのです。
勇気を出して声に出して演ってみてください。

樋口さんの「最近、あなた 笑えてますか」と「今だからこそ、良寛」の2冊は、すい臓がんの抗がん剤治療を2年半、受けている友人が、「いのちに感謝の独演会」を聞きに行って、同病のよしみから贈呈されたものです。

樋口さんは1952年兵庫県生まれ。東レに在職していた96年、43歳のときに肺小細胞がんに出会う。「3年生存率5%。5年は……数字がない」という状態から克服し、04年に東レを退職、執筆活動の傍ら、落語と語りをセットした独自スタイルで、人々を勇気づける活動をしておられます。

ところで、小噺、いくつ笑えましたか。


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