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「家に包丁?ありませんよ」

「個食・時短」時代の調理に見えるもの
8月26日日経ビジネスONLINE〔記者の眼}中川雅之より転載。 

「君ねぇ、知ってるか。最近は包丁やまな板が家にないっていう人だって多いんだぞ」

大手スーパー、マルエツの上田真社長と先日話していたら、そんなことを教えてくれた。最近、東京都内などの売り場を訪れると、やたらと目立つようになってきた「カット野菜」のコーナーについて、話が及んだ時のことだ。

カット野菜とは、調理の際に細かく切らなくて済むように、あらかじめ適当な大きさに刻んでパックで売っている生鮮野菜のこと。忙しい共働き世帯や、調理が面倒な単身者の人気を集めているとされる。

加工の手間がかかっている分、重量当たりの価格で比較すれば、そのままの生鮮野菜を購入するよりも断然割高だが、「丸ごと買っても使いきれない」ときがあることを考えると、表面的な価格差よりは経済的な負担感はないのかもしれない。

そんなカット野菜が少なくとも都市部で売れているのは、売り場を見れば一目瞭然だ。

農畜産業振興機構によると、カット野菜の市場規模は2011年に1900億円だった。セブン−イレブン・ジャパンでは「カット野菜は直近では前年の1.6倍くらいの売れ行きで推移している」(商品本部の石橋誠一郎執行役員)と言い、足元の市場はさらに拡大しているものと思われる。

しかし、個人的には「包丁もまな板もない家」というのは想像しにくい。いかに調理をしない人とはいえ、何かのために持っておくものではないのか。

興味を引かれたので、一応調べてみたが、「家に包丁やまな板がない家庭」がどの程度世の中にあるかという定量的な数値は見つからなかった。だが、周囲の人にそれとなく聞いて回ったら、本当にいた。

私が、なんとなく「料理してなさそうな人」に多く声をかけたことは否めない。だが、こんなに簡単にみつかるとは思わなかった。

ヒットしたのは独身女性

尋ねてみたのは10人にも満たない。そのうち、「包丁は持っていない。だからまな板もない」というアラサー女性が1人。「全く使わないが、この間たまたまもらったので包丁はある」という20代前半の女性が1人いた。ちなみに、どちらも独身だ。

2人とも、食事はほぼ外食か、弁当や総菜といったいわゆる「中食」で済ませている。調理のための道具といえば炊飯器や電子レンジといった家電製品がメーンで、鍋やフライパンはあるが、あまり使わない。要するに、一般的な人がイメージするであろう「料理」という行為を2人はほぼしないのだ。

無論、鍋やフライパンが家にあったとしても、料理をしないというのだからカット野菜だってこの2人はほぼ買わない。買うとすれば、コンビニやスーパーなどのサラダだろう。

だが今後、2人が結婚し子供が生まれるなどしたら? 結婚相手や、仕事を続けるかどうかといったことにもよるだろうが、カット野菜を頻繁に購入するようになるのではないか。

「包丁を持たない」というのは、ある意味で調理から距離を置く人の極端な姿だ。だがライフスタイルの変化とともに、「毎日3食分、食事を作る」という、調理に密着した生活をしている人が減っていることも確かだろう。食べることに対してどれだけ手間と時間をかけるかという価値観が多様になり、今、食材にもさまざまな変化が起きている。それを表すのは何もカット野菜だけではない。

先日、「果物離れ」が話題を呼んだ。農林水産省が6月にまとめた「果樹をめぐる情勢」によると、生鮮果実の1人当たりの年間購入量は、2011年に27.1キログラム。1989年の34.4キログラムから2割以上減少した。

「若者の果物離れ」という報道も多く目にしたが、摂取量でみると、10年前との比較で減少率が大きかったのは40〜50代で、いずれも29%も減少した。摂取量は全世代で減少しており、絶対水準では確かに20〜30代が低いが、その傾向は10年前も変わらない。

顕著なのは、生鮮から「カットフルーツ」といった加工品へのシフトだ。

果物も魚もカレーも

中央果実協会が今年1月にまとめた2012年度の「果実加工流通消費調査報告書」によると、「生鮮果物と果物加工品のどちらを摂ることが多いか」という問いに対し、「果物加工品が主体」とする割合は20代が32.7%と最も高かった。「同程度」という回答も25.2%あった。世代が上がるにつれて「生鮮が主体」とする割合が増え、60代では79.1%にも及ぶ。

これを、同協会が前身である「中央果実生産出荷安定基金協会」の時に実施した2009年の調査では、「加工品が主体」とする20代はわずか10.8%。「同程度」も18.6%しかいなかった。上の世代でも加工食品を選ぶ傾向は強まっており、比較可能な50代で見ると「加工品が主体」の割合は2012年調査で10.6%と、2009年から4倍に拡大。「同程度」も16.7%と、2009年から7.2ポイント増えた。

2012年調査では、「果物を毎日は摂らない理由」として、果実を敬遠する原因も探っている。その結果によると、「日持ちせず買い置きできないから」が41.5%でトップ。「他の食品に比べ価格が高い」が37.2%、「皮をむくなどの手間がかかる」が30.7%で続いた。

面倒なモノと言えば魚もそうだ。総務省の家計調査によると、「生鮮魚介」に対する1世帯当たりの年間支出額は2012年に3万5975円と、2005年から21%減少している。

国内消費の落ち込みに対して水産庁は、手軽・気軽においしく水産物を食べられるようにするための商品を「ファストフィッシュ」として認定し、購入を促す取り組みを昨年始めた。水産加工や小売事業者、各地の漁業組合などが積極的に製品開発を進め、認定商品は2500品目に上っている。缶詰や練り物などのほか、あらかじめ骨を抜いた「骨なし魚」も多い。

骨なし魚は、中国や東南アジアなどの工場で従業員がピンセットなどで文字通り「骨抜き」にするケースが多い。もともとは、介護現場などの需要を見込んで開発されたものとされるが、近年は共働き世帯や、骨を嫌がる子供がいる家庭がスーパーの店頭や宅配ビジネスで購入することが増えている。学校給食で提供されるケースもある。

影響を受けるのは生鮮食品ばかりではない。家庭料理の大定番たる、「カレー」にもライフスタイルの変化は影響を及ぼしている。

エスビー食品によると、家庭用の「カレールー」の市場規模は2012年度に約440億円だった。おおむね減少傾向にあり、5年前と比べると1割程度減っている。

家庭のカレーは、大量に作り、余った分は翌日にも持ち越して食べる人も多い。子供に人気が高いうえ、調理の負担も減らせることが国民食たるゆえんだった。だが少子化によりそもそも家庭の“胃袋”が小さくなり、また「家族揃って食べる」ケースも減っていることから大量に作る経済性が発揮しにくくなっている。冷凍して保存しておく手段もあるが、「そうするくらいならレトルトや冷凍食品を温めて食べるのと大差ない」(都内に住む30歳の専業主婦)と言う声も聞かれる。

こうした食スタイルの変化を、好ましくないとする向きもある。栄養面の心配もさることながら、骨のある魚をうまく食べられなかったり、料理ができなかったりする子供が増えることに対する教育的な不安を感じる人は少なくない。食文化の変質への懸念もある。

家庭内労働の限界

だが、これまで家庭に集中投下されてきた女性の労働力が企業社会にシフトしている現実を考えれば(一方、男性の労働力がそこまで家庭には流入していないことを考えれば)、家庭が担ってきた食品の調理・加工という労働の少なくとも一部は、外部に依存するか、省力化するほかない。子供のしつけ・教育の一部だって、そうだろう。

外部に依存する分、加工された食品を購入するのであれば、当然コストは高くなる。自分ではない誰かが代わりに、切ったり、骨を抜いたりしてくれた食品を買うのだから当然だ。要は、コストとライフスタイルと、どこで自分が均衡点を見つけるかということにすぎない。

油を使わない揚げ物調理器、加熱処理もしてスープが作れるミキサー。最近は調理家電の分野で人気を集める製品が相次ぐ。オーブンレンジの近年のもっぱらのうたい文句は、「焼き物と煮物が一緒に作れる」といった「同時調理機能」だ。健康志向や味など、調理関連製品にはほかのセールスポイントもあるが、「省力化」に対するニーズは極めて強い。

何か外部の力を使って家事をするのは、もはや仕方がない。男性や祖父母など家庭に代わりの労働力を投入しない限り、育児も含めて、古き良き専業主婦世帯のような家事労働は不可能だ。ならば、家事に対して距離を置いたり、省力化したりすることにもっと胸を張る人がいてもいい気はする。

終わらない仕事を家に抱えて帰った時、夕食のサンマにてこずるわが子に対して、箸の持ち方から骨の取り方まで根気よく声を荒らげずに教えられる親はどれほどいるだろうか。それならやはり、別のものを食べさせた方がいい。

今春、ある企業の食材宅配ビジネスの発表会に出席した。壇上には子供がいる女性タレントが上り、カット済みの野菜に付属のたれを入れ、フライパンで加熱するキット商品の「実演調理」をしていた。「5分でできちゃいます」とうたっていた。

と同時に、「子供にはできるだけ手作りのものを食べさせたいですよね」とも言っていた。営業用のコメントにかみつくのも無粋だが、それを「手作り」と呼ぶことには、やはり抵抗がある。「これは手作りではない。でもすぐにできて、温かくて、おいしい」という方が、素直ではあると感じる。

「包丁持ってますか?」と周囲に聞き取りしていたところ、ある先輩女性記者が重要なことを教えてくれた。

「君ねぇ、知らないの?昔から女子は使ってなくても包丁は持つの。だって男が家に来て、包丁がなかったらドン引きでしょ?」

おっしゃるとおり。包丁を持っていない女性に男がドン引きしないで済むようになれば、女性の社会進出はもっと進むだろうか。


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