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鉄は魔法つかい♪

宮城県気仙沼市のカキ養殖家畠山重篤さん(68)が、優れた森林保全活動をたたえる国連の「フォレストヒーローズ(森の英雄)賞」の受賞者に選ばれ、9日、ニューヨークの国連本部で表彰式が行われたという、東日本大震災の被災者の皆さんをも元気づける2月10日のビッグニュースでした。

以下は、2012年2月10日の読売新聞夕刊「よみうり寸評」から転載。

〈フォレストヒーローズ〉(森の英雄たち)――何とすばらしい称号ではないか。国連森林フォーラムが2011年の国際森林年を記念してその名の賞を創設した◆森林の保全に取り組んだ功績をたたえようというもので、その第1回受賞者に宮城県気仙沼市のカキ養殖家畠山重篤さんが選ばれたというのがまたうれしい◆海の人が森の仕事で表彰されるのも、この人については何の不思議もない。もう20年以上も「森は海の恋人」を合言葉に植林運動を続けてきた◆豊かな森の養分が川を通じて海へ注ぐ。それがプランクトンを育て、魚や貝の餌になる。豊かな海は豊かな森があればこそなのだ◆その海を昨年の大震災が襲った。畠山さんは母も養殖施設も失った。が、3か月後に魚が戻ったとき「森あればこそ」を深く思った。毎年の植樹祭も中止しなかった◆畠山さんはアズサの木を植えた。畠山さんの船の名が「あずさ丸」。しなりがあってねばり強いこの木が、三陸漁師の命綱、櫓ろの材料であることに由来する。

その畠山さん著「鉄は魔法つかい」から「レバニラいためは好きですか」と「キレートは別れない」の2編を転載しました。ご一読ください!

▼レバニラいためは好きですか

「さて」

と、丹羽先生は笑顔になりました。

「鉄の中華鍋でレバニラ炒めを料理するということは、すばらしいことです。中国人のパワーは、そのへんにあるのかもしれませんよ。レバニラいためは好きですか?」

わたくしがキョトンとしていると、先生はこう続けました。

「鳥レバー、豚レバー、牛レバー、アサリ、カキ。これらの食品は、吸収されやすい形の鉄(ヘム鉄)をふくんでいます。ふくまれている鉄の約20パーセントが体内に吸収されます。

ノリ、ヒジキ、厚あげ、納豆、コマツナ、ホウレンソウなどにふくまれている鉄は、体に吸収されにくい形の鉄(非ヘム鉄)です。5パーセントしか吸収されません。そこで調理に工夫が必要です。ビタミンCや酢といっしょにとると、鉄の吸収しやすい形に変えてくれて、吸収率がグンとアップします」

なるほど。レバニラいためは、鉄分の多いレバーとビタミンCたっぷりのニラとの名コンビなのです。

あっと思いました。

妊娠しているお母さんはすっぱいものを食べたくなるといいます。ビタミンCの豊富なすっぱいものの代表はレモンです。レモンやオレンジ類のクエン酸は、鉄を吸収するためにとても有効です。赤ちゃんと二人分の鉄分が必要な妊婦さんの体は、もっともっと鉄をとりこむために、すっぱいものをほしくさせるにちがいない!

鉄は命の栄養なんですね。

小さな命が生まれるふしぎを、地球の海の中でも、人間の体の中でも鉄がにぎっているのです。体も小さな地球なのかもしれません。

「また、カキは鉄分のほかにビタミンB12も多くふくんでいます。葉酸をいっしょにとることが大切です。葉酸もビタミンBの一種で、葉物野菜に多くふくまれています。この二つがおぎないあって働き、血液がつくられます。遺伝子を正確に複製するための重要な役わりも果たしています。カキ鍋にセリを入れるでしょう? それは葉酸をいっしょにとることになりますね。ちなみに葉酸も妊婦さんに必須なんですよ」

と教えてもらいました。

カキには鉄分もビタミンB12もふくまれていることを知り、あらためて大切な食品であることを学びなおしました。カキ養殖四代目をつぐ、小学生の孫に教えることがまたふえた……。

そんなことを思いながら、東邦大キャンパスをあとにしたのです。90分の講義でおなかが減っていました。駅前の食堂でレバニラいため定食大もりをたいらげたことはいうまでもありません。
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▼キレートは別れない

すぐ北海道大学に電話し、「明日会っていただけませんか」と連絡してみました。すると、「朝10時にきてください」という返事をいただき、K君とすぐに出かけました。

北海道大学水産学部は函館市にあります。朝早く寝台列車をおりたK君とわたしは、有名な朝市にいき、まず朝ご飯を食べました。

そして、七重浜というところにある北海道大学水産学部をたずねました。松永先生は海洋化学講座の先生です。先生も生徒も白衣を着ていて、薬のにおいがプーンとします。まるで病院へいったようでした。

30年前、気仙沼水産高校の化学実験室で勉強したことも思い出しました。

青い海を取り戻すために山に木を植える運動を始めていることを話しますと、

「それはとても理にかなっていることです。よく気がつかれましたね」と笑顔でいわれたので、ほっとしました。

「ちょっとむずかしいかもしれませんが、森と海とのサイエンス(科学)を説明します」と、ホワイトボードの前に立ちました。

「食物連鎖を知っていますか。海の中では、まず植物プランクトンや海藻がふえることで、動物プランクトン、小魚、大きな魚がふえることにつながります。植物は光合成をしますよね。光合成とは太陽の光を使って水と二酸化炭素から、炭水化物をつくり、同時に酸素を出す働きのことです。炭水化物は、植物自身の体と栄養になります。光合成は、葉緑素(クロロフィル)が担っています。まず、葉緑素ができるには、どうしても鉄が必要です。それから、光合成をして植物が育つには、チッ素、リンなどの養分が必要です。植物プランクトンや海藻など海の植物も同じです。海の中では、チッ素は硝酸塩、リンはリン酸塩という形で水に溶けています。これを植物の栄養とするには、硝酸塩とリン酸塩をチッ素とリンという元の形に、もどさなければなりません。硝酸塩をチッ素に還元しなければならないのです。このときにも、鉄が重要な役わりをしています」と、一気に話されたのです。

そのとき電話が入って、先生が席をはずしました。

同行したK君がそっと耳うちしてきました。

「還元とかなんとか、さっぱりわからないよ。きみはわかる?」

Kくんは早稲田大学文学部出身で化学は苦手だったのです。

わたくしは30年前、水産高校で学んでいたことが、こんなところで役立つとは夢にも思いませんでした。そこでK君に説明してやりましたが、「うーん……」と、まだ首をひねっています。

そこへ松永先生がもどってきて、再び熱心に話をはじめました。

「でも鉄はふつう、すぐに酸素とくっついて酸化してしまいます。すると、とても大きな粒子になってしまいます。この大きな粒子は、植物の細胞膜を通ることができません。つまり、酸素とくっついてしまった鉄は、植物は吸収ができないのです。では、植物が吸収しやすいのは、どんな鉄なのか?ずっとわからなかったのですが、やっとそれがわかりました!植物が吸収できる形の鉄がつくられるのが森林なのです。森林では毎年、木の葉が散りかさなり、腐って腐葉土になりますね。そのときにできるのが『フルボ酸』です。森林に雨がふると、腐葉土の下の地中の鉄を溶かして地下水になります。この鉄にフルボ酸が働きます。フルボ酸は鉄ととても相性がよく、酸素よりもす早く鉄とくっついてしまいます。分子と分子はくっついて、『フルボ酸鉄』という形になります。こうなると、かたい結びつきとなって、はなれなくなります。こういうかたい結びつきを科学の専門用語で『キレート』といいます。フルボ酸鉄がどうやって植物の細胞膜を通過できるのかはまだわかっていないのですが、植物の細胞の近くにくると、フルボ酸と鉄ははなれ、鉄だけが吸収される場合もあることが、最近わかってきました。こうして植物プランクトンや海藻は、鉄を吸収して育つのです」

わたくしは涙が出てくるような感激にみまわれました。30年前、中学生のときに今井丈夫先生からきいた「森の中に魔法つかいがいる」という意味が分かったからです。

漁師が山に木を植える理由も、これで科学的に説明ができます。

森は海の恋人植樹祭を始めた翌年の1990年のことでした。
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「山に木を植えても育つのに50年はかかるが、人は20年で育つ。人を育てる方が早いんです。だから教育は大切」と畠山さんは強調されます。

人間がこんなに宇宙的、地球的規模の大きな環境の中で生かされているという奇跡のお話であり、それを知る冒険物語です。ほとんどの漢字にはふりがながしてあって、文章は読みやすいし、挿し絵は楽しいし、こんなに新しい知識と考えに満ちた有益で楽しい本はありません。中学3年の国語の教科書に「森は海の恋人」が載っているそうですが(この著書の方が文学的で、高尚だと思います)、小学校高学年以上の皆さんにもぜひ、今だからこそ、読んでほしい一冊です。

命の水を再生する「森は海の恋人」(前編)牡蠣の森を慕う会 畠山重篤氏(2008/06/17)
<http://eco.nikkeibp.co.jp/style/eco/person/080617_kaki01/>
命の水を再生する「森は海の恋人」(後編)牡蠣の森を慕う会 畠山重篤氏(2008/06/24)
<http://eco.nikkeibp.co.jp/style/eco/person/080624_kaki02/>
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畠山さんの受賞ニュースが報じられた同じ日に、政府が「復興の司令塔」と位置づける復興庁が10日発足しました。がれき処理、高台移転、放射能汚染対策……。同庁が中心となって財源や人材を迅速に手当てするテーマは数多く、課題も山積しています。

以下は「森は海の恋人」から「恋人たちを引き裂くもの」より抜粋転載。

・・・略・・・

そういえば大分前から、この曲がりくねった国道284号沿いに「新月ダム建設反対」と書かれた、色褪せた看板が林立していることは知っていた。だが、それが何を意味しているのか、自分たちとどう関わりがあるのか深く考えることは今までなかったのである。

しかし、森と海との重要な関わりに気付き、気仙沼に注ぐ大川に目を向ける時、その規模の巨大さと、建設予定地が河口から僅か8キロという、鴎の姿が時折見受けられるような海に真近な地点だけに、海の環境に対する負荷が絶大なものになることを直感した。

・・・略・・・

自然に優しい生活、自然との共生が求められている今の時代、巨大な自然破壊が伴い、堆砂(ダム湖に溜まる砂)によっていずれ埋まる運命にあるダムの建設を続けることは、未来に大きな負の遺産を残すことになるのである。いかにしてダムを造るかを考えるより、ダムを造らないで暮らせる生き方を模索すべきではないか。

宮城県人であることを誇れる日が一日も早く訪れることを願いつつ。
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治水・利水の多目的の新月ダム建設計画が発表されたのは1974年2月。「海は森の恋人」が北斗出版からは発行されたのは、20年後の1994年10月。そして、「大川にダムが出来たら気仙沼の海は死んでしまう」という漁師の思いから始まった運動は、ついに2001年、当初の目的だったダム計画の中止を勝ち取ったのです。

東日本大震災の復興が、どうか地域主権で行われることを願うばかりです。


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