トップページ知って得する講座谷崎潤一郎著「猫と庄造と二人のおんな」の「小鯵の二杯酢」

谷崎潤一郎著「猫と庄造と二人のおんな」の
「小鯵の二杯酢」

健全な伝統食の体系が確立していて、それが家庭で守られている国では、栄養学の知識がなくても栄養はちゃんととれる。その食事もまた、死ぬくらいおいしいはずである。そこには一つの民族が何世代にもわたって蓄積した、おいしくてしかも適切な栄養摂取のできる料理の知恵が結実しているからだ。

以上は、丸元淑生著「いま、家庭料理をとりもどすには」の「文庫版のためのあとがき」から抜粋引用したものですが、本日紹介します、庄造が愛する「小鯵の二杯酢」は死ぬくらいおいしい一品です。これからの季節に、どうぞ(^_^)

5月19日読売新聞夕刊、「食いしん坊 谷崎」(待田晋哉)より転載
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谷崎文学には、意外なファンがいる。愛らしく、小憎らしい雌猫のリリーが登場する一編は、女優の本上まなみさんの愛読者だ。中学時代に文庫を買い、1時間25分で読破したという。

「普通のヨウカンだと思ってもらってきたら中に栗が入っていたという感じ」

『文豪ナビ 谷崎潤一郎』(新潮文庫)の中で、面白い感想を記している。

主人公の庄造は、芦屋に住む30歳前の男だ。家業に身が入らず、将来を心配した母は妻を離縁させ、持参金つきで後妻の福子を迎えた。その彼の大の好物が、小アジの二杯酢である。

初夏を迎え、魚屋が家の近くを通るたび、買っては調理させる夫。愛猫とじゃれあい、口移しで食べる姿が妻の嫉妬を誘い始める。


東京から移住した人間は、関西の酢を使った料理の多さに一度は驚く。小皿に盛られた鰻ざくやハモの皮、居酒屋のキノコぽん酢に至るまで・・・・・気がつけば、あの酸味に洗脳されている。

総務省の家計調査によると、昨年の酢の1世帯(2人以上世帯)あたりの年間購入量は大阪市が3160ミリリットル。東京都区部の2393ミリリットルより際立って高い。料理研究家の奥村彪生さん(71)は「酢のさっぱりした味が、大阪の蒸し暑い夏に合う」と話す。

小アジの二杯酢は、素朴な食べ物だ。瀬戸内海の豊富なアジを、ただ焼いて漬ける。それなのに、ご飯にも酒にも合う。多くの上方人と同じくこの一品を愛する庄造は、簡単で飾らない真の美食を解する、人生の楽しみを知る男ではないか。

「あんた、わてより猫が大事やねんなあ」福子はついにヒステリーを起こす。

「ま、ようそんなこと」

「阿呆らしくなって来るわ、ほんまに!」

「そんな無慈悲なこと云うもんやないで」

甘えるように相手を丸め込み、前妻にも未練を注がれる庄造は、男のプライドにこだわらず、女と居心地よく暮らす術を知っている。本心がどうであれ、お腹がすけば、憂いを帯びた瞳でゴロゴロと鳴き、飼い主の心を引く小さな獣と通じる。

本質で生きる人間を描くとき、谷崎の筆は冴えを増す。


天保時代から170年以上の歴史を誇る大阪・上町の割烹「とんぼ」の橋本義文さん(52)にアジを調理してもらった。焼いた直後に浸すのが、染み込ませるこつだ。現代人は酢と薄口しょうゆを1対1で混ぜる二杯酢より、砂糖を加えた三杯酢が合うようだ。

背骨あたりの肉をつまみ、ほおばる、涼感が口に広がった。1尾、2尾・・・・・。はしがとまらず、あっという間に骨と汁だけになった。

辺りには、誰もいない。

皿に口をつける。恥も外聞もない。おいしいあの酢をすする誘惑に、あらがえなかった。


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