トップページ知って得する講座「百姓」という至高価値!

「百姓」という至高価値!

3月28日読売新聞「時の余白に」編集委員芥川喜好より転載

住まいの前の狭い道をゆっくり歩いていると、後ろからきた車が一瞬速度を落とし、追い越しざま一気にアクセルを踏みこんで走り去ります。

のろまな歩行者への、いらだちの表明です。十中八九、運転者は同じ反応を示します。

――と書いてきて、まったく同様の話を前に書いていたことを思い出しました。やれやれ。人をけ散らして行くこの横暴なものとの心理的戦いが、日夜続いているということです。

人間の壊れやすい肉体にとって車は本来暴力的なものであると、そのとき書きました。当方、地方から東京へ転勤になった31年前に車を捨てた者ですが、覚えているのは「これで人をひき殺さずにすむ」という深い安堵感のあったことです。不便は承知の上です。

車が便利で快適なものであり工業社会の生んだ最も優秀な工業製品だったことは確かです。人体や環境への危害という大きな代償を払っても、人間はその便利さを選択し、速さに賭けてきたわけです。

いま新車の販売が不振をきわめ、雇用に深刻な影響が出ています。08年度の減産は400万台余、就業者の8%にあたる500万人が関係者、という数字の大きさに改めて驚きます。

有用だけれど害も少なくない工業製品を、大量に作り大量に売り続けないと成り立たぬ社会を人間はつくってきた。雇用は喫緊の課題ですが、長い目で見てこの過剰さでいいのかという疑問を禁じえません。

石油資源が枯渇して行けば、やがて車どころでなくなる日も遠くはないはずです。

一人の人のことを思い出していました。彼は言っています。

「地球が何億年もかけて蓄えてきた地下資源を、私たちは湯水のように使い、わずか百年ほどのあいだに枯渇させようとしている」。石油の可採年数に諸説あるとはいえ、人間の思い上がりをこれほど端的に語った言葉を他に知りません。

「人類も他の生物も、未来永劫にこの丸い小さな地球に貼りついて生きていかなければならない」、だから「人類が末永く生き続けるためには文明の転回を計らなければならない」とも彼は言っています。

十何年か前、地方の文化活動に携わる人々の集まりで会ったその人、筧次郎さんは「1947年生れ、茨城の百姓」と名乗りました。自著として披露された『百姓入門』(邯鄲アートサービス刊)は、そうした文明批判を根底にもつ「農」の実践報告でした。

詳しい経歴は語られていませんが、哲学の徒だったらしい。「文明の進歩」という考え方に疑問を持ち、歴史を学び直して見えてきたのは、ヨーロッパが世界からの収奪によって富を築き、その帰結として工業社会を発展させてきた大航海時代以降五百年の道筋だった。

工業社会の豊かさは収奪によって得られている。工業国の繁栄の裏に多くの泣いている人がいる――そのことに耐えがたく、自給自足を求めて貧乏覚悟の百姓暮らしに飛びこんだ、と筧さんは書いていました。

35歳から始まった「他者を苦しめないですむ」農耕の日々、自然のリズムとともに展開するその伸びやかな自立の生活が、『百姓入門』には季節感豊かにつづられています。

その後の消息が気になりました。聞きあわせた結果、筧さんは茨城県石岡市で元気に26年目の百姓暮らしを続けていることがわかりました。

西に筑波山を望む昔からの農村です。ここで田40アール、畑80アールを耕し、米と年間80種の野菜を作ります。鶏が150羽。妻の白玉陽子さんとの二人仕事は、そのくらいが限度です。

水戸市の真宗寺院に生れ、京大で西洋哲学を学びパリに留学するまでは一直線の学者道でした。しかし旧植民地の人々があらゆる底辺労働に従事するフランスの現実を見て、いわば人類の歴史をつらぬく「収奪」の構造に気づきます。

帰国後の筧さんを導いたのはガンジーの「スワラジ(自治)」という思想でした。「支配者にも奴隷にもならない真の自由ということです。自分の労働で自立して生きる。そのための自給自足であり、目指したのは昔の百姓仕事でした」

「百姓とは普通の人民のことです。自分は特権階級ではない、庶民であると、誇りをもって言うための言葉ですよ」

耕運機や軽トラックなど必要最小限の機械は使いますが、多くは土地の老農から学んだ伝統的な手仕事です。世代から世代へと伝えていくそうした技術や知識こそ真の文化だと筧さんは考え、自分でも伝承のための活動を続けています。

農薬も化学肥料も不要です。「重要なのは自給性です。旬のものを食して健康になることです。生産性、収益性第一の<農業>ではないんです」

次々に新たな欲望を開発する工業社会の基本は、激しい「変化」です。筧さんが百姓暮らしの実践から得たのは、「変わらなくても生きていける生活」という価値観です。

誰もが筧さんのように根源的に考え行動できるわけではないでしょうが、こうした生を知ることで、一人一人の内に新しい物の見方が生れてくることも確かなのです。

--------------------------------------------------------------------

長文でしたが、“「百姓」という至高価値”をご一読されて、如何でしたか。
私は、イタリア有機農業のリーダー、ジーノ・ジロロモーニ氏、木次乳業の佐藤忠吉さんを思い浮かべました。筧さんは京大で哲学を学んでおられますが、それぞれが超一流の哲学者で実践者だと感服しました。
<http://www.chiffonya.com/shop/girolomoni.htm>
<http://www.chiffonya.com/shop/kouza/titoku097.htm>

記事を読んで、すぐにアマゾンで「百姓入門」を購入しましたが、まだ手元に届いておりません。紐解くのが楽しみです(^_^)

自給率の向上は最優先されるべき日本の課題ですが、筧さんの「変わらなくても生きていける生活」という価値観を食生活に少しでも取り入れることで、消費者自らが自給率を改善できる余地が相当あると思いました。そしてそれは、日本の優れた伝統を重んじることなるのではないでしょうか。


                         トップページに戻る                  ▲ページの先頭に戻る

サイトマップ商品一覧
ふんわりシフォン日記お客様のご感想集Mrs.KURIの簡単レシピ集ふれあい写真館

FLOURひろ:〒145-0071東京都大田区田園調布1-31-11:tel 03(5755)5050